2019年12月03日

ミイラ ミイラの語源 日本語のミイラはポルトガル語のMirraから 更にその語源は没薬(Myrrh)または瀝青(Mummiya)に行き着く

 上野の科学博物館において現在ミイラ展が開催されています。折よく前漢の項が終了したことを受け、一時的にいつもの連載を中断し、ミイラについて記すことと致します。お付き合いいただけると幸いです。

 ミイラという言葉は、没薬(Myrrh)またはアラビア語のMummiyaを起源とします。前者の説を採るならミイラの防腐処理に没薬が使われていたこと、後者なら7世紀にエジプトを支配したアラブ人がミイラのあの色を瀝青に起因するものと考え、アラビア語で瀝青を意味するMummiyaと呼んだことが起源です。

 英語ではMummyが相当する言葉で、ミイラとは似ていませんね。それも道理で、日本語のミイラはポルトガル語のMirraから作られた言葉です。なんとなく、瀝青Mummiya説はMummyに、没薬Myrrh説はMirraに近いようで、どちらが正しいか悩みますね。

 いずれにしても、ミイラの語源はエジプトの乾燥させた遺体を指していました。

 生物が環境の変化に耐えたり病原体との戦いに勝利するために選んだのは、性分化と死でした。これらは年を億の単位で数えなければならない遥か昔に起こったものですから、人類はその誕生時から、死と付き合うしかありませんでした。

 死者は、親しい人間が永遠に去ってしまったことを惜しまれると同時に、死への根源的な恐怖や、死者が生者に悪影響を及ぼすのではないかと恐れられる存在でもありました。だからこそ、人類は黎明期から使者を葬ってきたわけです。

 死者が持つと考えられた霊的な力を抑制したり利用したりするため、死者は縛って埋められたり、あるいは敵を防ぐ役割を期待されることもありました。

 死者に対するこうした思いは古今東西で千差万別で、死後の世界についての考えと密接に結びついています。人々は、彼らが想定する死後の世界を豊かにしようとして、それに相応しい埋葬方法を考えてきました。

 もう1つ、埋葬方法に影響を与えたのは、気候です。


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2019年12月04日

ミイラ 遺体をミイラにする50の方法 現在では皮膚の残った遺体はミイラと呼ばれる ミイラ化には様々な方法があり、保存食の技法はそのままミイラ化の技法でもある

 日本のように多湿な地域で暮らす場合、遺体はほどなくして腐敗を始めます。現代では遺体が放置され、腐敗して朽ちていく姿を見ることは(検屍官などの一部の方を除いて)そうそうないでしょうが、少し年代を遡れば遺体が朽ちていくのは当然のことで、その移り変わりは例えば九相図のような形で残されてきました。

 腐敗した遺体は悪臭を放つだけではなく、腐敗菌によって周囲の者に健康被害を与えることもあったでしょう。

 一方で、乾燥した地域の場合、遺体は放置しておけば水分が奪われ、乾燥してミイラになります。

 では、ミイラとは何でしょうか。『教養としてのミイラ図鑑: 世界一奇妙な「永遠の命」』の引く、『新法医学』にはこう定義されているそうです。

死体の乾燥が腐敗による分解速度より早く、かつ高度に進むと、死体の乾物ができあがる。これがミイラであり、体水分が60%以下になると細菌類の繁殖が阻止され、さらに50%以下になれば完全に止まる


 乾燥によって腐敗菌が水分を利用できなくなり、腐敗が止まったものが、エジプトのミイラに代表されるものですね。広く知られている通り、エジプトでは死後の生活に備えて遺体が腐らないよう、防腐処理を施していました。

 しかし、遺体が腐敗しないまま保たれるのは、暑く乾燥した地域とは限られませんし、必ずしも人手が加わっているとも限りません。そこで、現在では、皮膚の残ったままの死体は人間であれ人間以外であれミイラと呼んでいます。

 やや不謹慎かも知れませんが、保存食はまさに腐敗菌を繁殖させないための手段を追求したものですから、保存食に用いられる様々なテクニック、例えば塩漬け、燻製、乾燥、砂糖漬け、酢漬け、オイル漬けなどはそのままミイラ製作に適用することが可能なのです。


教養としてのミイラ図鑑: 世界一奇妙な「永遠の命」
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2019年12月05日

ミイラ 遺体をミイラにする50の方法2 塩漬け、燻製、死蝋化など、様々な方法でミイラは生じる

 例えば、イランの岩塩坑から発見されたミイラは塩漬けになることでミイラ化したものです。この場合、塩が強力な吸湿剤として働くため、遺体から急速に水分が失われるのですね。仮に水分が残っていたとしても、塩分濃度が一定以上高まれば、細菌が生化学反応に利用できなくなりますから、遺体は腐敗せずに保たれるようになります。

 あるいは、パプワニューギニアのアンガ族は死者の脂肪を抜き取ってから煙で燻して乾燥させ(燻製に他なりません)てミイラにしています。ミイラは崖に安置され、外敵から村を守ってくれると信じられていたそうです。

 ということは、湿度の高い地域であっても、一定の条件を満たせばミイラを作ることが可能です。例えば日本にもミイラはあります。広く知られているのは、即身成仏ですね。

 日本のミイラについては後述することとし、ここでは条件さえ整えれば湿度の高い地域でもミイラを作ることは可能ということだけ押さえておきましょう。

 皮膚が残り続けるものをミイラと呼称するのであれば、乾燥させた以外の形態のミイラも存在します。多湿の地域で死体が腐ってしまうのは、腐敗菌の働きによるものです。ということは、多湿であっても腐敗菌が活動できないような環境であれば、ミイラが生まれます。

 例えば水中で腐る前に死蝋化(腐敗を免れている間に脂肪が変性して蝋状になる現象)してしまえば、その死体はミイラとして残ることになります。死蝋化はミイラとはまた異なるとされることもありますが、皮膚が残り続けるものをミイラと定義するのであれば、こちらもミイラに該当します。

 例えばヨーロッパでは、泥炭地でいくつものミイラが発見されています。『教養としてのミイラ図鑑: 世界一奇妙な「永遠の命」』によれば、「@強酸性の水A低温B酸素の欠乏」という特殊な条件が揃った場合に生まれます。腐敗菌は増殖に酸素を必要とするので、このような環境下だと腐敗しないのです。

 泥炭地のミイラはエジプトの人工処理されたミイラとは異なり皮膚や内臓がそのまま残っているため、生前どのようなものを食べていたかを知ることができます。

教養としてのミイラ図鑑: 世界一奇妙な「永遠の命」
教養としてのミイラ図鑑: 世界一奇妙な「永遠の命」


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2019年12月06日

ミイラ 泥炭地のミイラ ヨーロッパの泥炭地から見つかるミイラには殺害された跡がある 処刑か儀式か

 このブログでも、過去、ローマ2 ゲルマニア3 ビールとハチミツ酒は魅力だけど食べ物は恐ろしそうなゲルマニアにおいて以下の文章を載せているとおりです。

 『原始ゲルマン民族の謎―「最初のドイツ人」の生と闘い (アリアドネ古代史スペクタクル) - 』から引用しましょう。絞め殺された後に沼に沈められた遺体の胃の内容物から穀物の再現したシーンです。
(略)「ドイツ小麦、ワタスゲ、アガサ、キンポウゲ、ホンムギ、セイヨウノコギリソウ、カミツレ、フキ、キヅメカミツレなどの穀粒をからからに乾かしたものを、亜麻の種、裸麦、キビ、大麦の粒と混ぜ、それを一リットルの冷たい水に浸し、その後弱火で一時間煮る」とある。


 実に美味しく無さそうです(笑)。気になる感想についても引用しなければならないでしょう。

 どんな味がしたかという問いに、ウィーラー卿はユーモアに欠けることが多い専門家らしからず、いわく、

 「彼らはなぜあの男の首を吊ったのだろう?彼はあそこのあれを――」

 と吐き気を催したようなジェスチャーもまじえて粥を指しながら、

 「あそこのあれを食べなければならなかったのだとしたら、それだけでも十分に罰せられたことになったのに……」

 一方のダニエル博士も答えていわく、

 「それは、この二十年間妻が私のために毎朝つくってくれた、正直いって私には我慢できないポリッジと基本的には大して変わらない」


 ヨーロッパの泥炭地で見られるミイラの多くは鉄器時代のもので、多くは殺害され、裸にされていました。処刑されたのか、はたまた神に捧げられたのか、理由は分かりません。湿地のミイラは発見されて地上に持ち出されると、急速に分解が進んでしまうそうです。遺体にはまだ腐敗菌が使うことのできる水分が残っているため、地上に引き上げられて腐敗菌が活動できるようになると、腐敗してしまうのです。


原始ゲルマン民族の謎―「最初のドイツ人」の生と闘い (アリアドネ古代史スペクタクル)
原始ゲルマン民族の謎―「最初のドイツ人」の生と闘い (アリアドネ古代史スペクタクル)


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2019年12月07日

ミイラ 泥炭地のミイラ2 泥炭地のミイラはいずれも冬至の頃に殺されていたため、儀式と見られる ミイラの発見から解決した殺人事件について

 なぜ彼ら、彼女らは殺害されて泥炭地に沈められたのでしょうか。『5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎』によれば、「古代のゲルマン諸族は、姦通や同性愛などの罪を犯した者を湿原に沈めたという」ことですので、処刑された犠牲者なのかも知れません。

 泥炭地のミイラはいずれも真冬の時期に殺害されていることも分かっているそうなので、アステカ人が翌日も太陽が上るようにと人の心臓を取り出していたのと同じように、冬至の頃に翌年の天候が良くなるようにとの願いを込めた儀式の一環だったのかもしれません。少なからぬミイラが複数の種類の致命傷を与えられている(例えば、頭蓋骨が陥没するほどの打撃を受け、首をロープで絞められ、おまけに喉を切り裂かれている事例があります)ことと合わせて考えれば、儀式の犠牲説は筋が通っているように思います。

 上述の通り、泥炭地のミイラは非常に保存状態が良いので、ミイラが発見された場合には、すぐに放射線炭素年代測定にかけられます。特に泥炭地のミイラは殺害された跡が見られることが多いので、安易に古い時代のミイラだと断定してしまうと現代の殺人事件の被害者を見逃してしまう可能性もあるのです。

 『ミイラ事典 (「知」のビジュアル百科)』に面白い事件が載っていたので紹介しましょう。

 1983年、イギリスのチェシャー州の泥炭地で、泥炭(泥炭は炭が多く含まれているので、燃料となるのです)を掘っていたところ、半分崩れかけた女性の頭部が発見されました。これが報じられると、近隣に住む男が23年前に妻を殺して泥炭地に遺棄したと出頭してきます。ところが、放射線炭素年代測定法で鑑定したところ、遺体の主は1770年以上前のものだったことが判明したのです。

 犯人は黙ってさえいれば死ぬまで犯行が露見することはなかったわけですから、ミイラが犯罪を明らかにした、と言っても過言ではないでしょう。

5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎
5000年前の男―解明された凍結ミイラの謎

ミイラ事典 (「知」のビジュアル百科)
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