2015年12月22日

古代ギリシアの科学哲学 エピメニデスのパラドックスと、原子論のデモクリトス

 パラドックスついでに、強引ながらクレタ人のパラドックス(エピメニデスのパラドックスとも)についても触れておきます。

 前500年ごろに活躍した、クレタ人のエピメニデスの言として伝えられているのが、「全てのクレタ人は嘘つきである」というものです。仮にこの言葉を真である(クレタ人は常に嘘をつく)としましょう。すると、「全てのクレタ人は嘘つきである」が嘘なのですから、クレタ人も本当のことを言うことになります。「全てのクレタ人は嘘つきである」は正しくなりますが、クレタ人であるエピメニデスは正しいことを言っていることになりますね。矛盾です。では、「全てのクレタ人は嘘つきである」を偽であるとしましょう。すると、クレタ人は正しいことを言うということになります。今度は「全てのクレタ人は嘘つきである」と矛盾しますね。

 このように、ある言明が自分自身に跳ね返ってきて矛盾を生じさせることを自己言及のパラドックスと呼んでます。表計算ソフトでも循環として指摘されることですね。

 クレタ人のパラドックスを上手くジョークにしているのが、このような話です。

 ある夫婦がカウンセラーのところにやってきました。妻は興奮して、「夫はいつも嘘ばかり付くんです!一緒になんか暮らせません!」とまくし立てます。カウンセラーが夫に意見を聞くと、夫曰く、「妻はいつも正しい」、と。

 こちらのジョークも、夫の言葉を正しいとしても誤りとしても矛盾が生じます。

 厳密には上記のクレタ人のパラドックスは、パラドックスにはなりません。なんとなれば、「全てのクレタ人は嘘つきである」の否定形は、「全てのクレタ人が嘘つきであるというわけではない」ということになりますから。

 さて、続いて登場するのは原子論で知られるデモクリトスです。彼は、全てのものは原子と空虚で説明できるとしました。ゼノンのパラドックスで示された無限の問題について、デモクリトスは数学的には無限分割が可能でも、現実世界では無限の分割は不可能で、それは万物の基本となる原子が最小の粒子で、それ以上は分割できないとしました。

 後の原子論を先取りするような意見です。現在の原子論の教えるところでは、単一元素では最密充填(面心立方格子)された個体であっても、充填率は74%に過ぎません。しかも、その原子も殆どがスカスカの真空なのです。気体に至っては、ほとんど全てが真空と言って差し支えない程です。

 現代に生きる私達ですら、空気はほとんど真空だなどと聞くと騙されている気になってしまうのですから、原子論を裏付ける証拠の無い時代なら尚更です。デモクリトスは原子論のために馬鹿にされ、信用を失ったと言われます。

 デモクリトスは思念だけの人ではありませんでした。錐体の体積が柱体の3分の1であることを示したと言われます。博識で知られましたが、貧しく、兄に養ってもらった時代もあります。

 後に著作を朗読して財産を築きますが、全体としては才能に対して不遇だったと言えるでしょう。彼の原子論も、アリストテレスで完成を見る4元素説に負けて顧みられなくなっていきます。現代科学の観点から見れば、原子論は4元素説と比べたら遥かにマシではあるのですが、化学が未発達な時代には想像の世界に留まらざるを得なかったのです。

 尚、デモクリトスはプラトンと同時代の人物ですが、便宜上ソクラテス以前の自然学者に分類されています。また、プラトンはデモクリトスを徹底して無視していたようです。プラトンが歴史の中に消え去る寸前だったのは、西洋哲学で大きく取り上げられるプラトンのこうした態度が影響していたかもしれません。



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posted by 仲井 智史 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 古代ギリシアの科学哲学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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